今回は、unit.sqcallの田坂航太郎さんにレポートを書いてもらいました!
[writer] 田坂航太郎(たさか こうたろう):unit.sqcall所属。大学演劇を経て、俳優中心に現在も精力的に活動。とっつきやすい人柄と役者・脚本でも不思議な持ち味を発揮。何を隠そう劇団笛出身。
山口大学演劇サークル劇団笛令和5年度夏公演「明日、宇宙人になります」を観劇して
タイトルの通り明日から宇宙人になる(かもしれない)方々のお話でした。
突如人間を襲う謎の痒み、その原因は身体の中にある未曾有のDNAだった!そんな原因だったので病気にかかった(便宜上病気と呼ばせていただきます)人々は宇宙人と呼ばれ隔絶された場所で暮らさなければならない、といった具合。
ここだけ聞くとコロナ禍の香りがするお話だなあと感じ、調べてみるとこの台本が初演されたのは2020年。「これは当たったか!」と思いもしたのですが、観劇後すぐの僕はこの芝居に一時代に収まらない普遍性を感じました。なんでもコロナと結びつけるのは良くないと反省です。
舞台は宇宙人か否かの検査結果を待つ人々がいる待機所。「宇宙人になる」という自らの運命に様々な感情を持つ人々たちが織りなす群像劇、といった印象でした。
終いにつれて皆それぞれやりきれない気持ちとの折り合いをつけ、別れの手紙を書いて待機所を後にします。
うーーむ……。先ほど反省したそばから考えれば考えるほどコロナが付き纏ってきます、ウィズコロナです。遠いものだと思っていた「死」がウイルスとして自分の身に突然降り注ぐ、そして世界に別れを告げる、と捉えることも出来てしまいます。そうなると、もうそうなってしまいます。
見終わった後の僕は何故そう思わなかったのだろう?と考えてみると、僕が今回1番素敵だなあと感じたシーンのおかげorせいかもしれません。
未曾有のDNAが引き起こす痒みに対して、宇宙人候補生?たちは悲観したりなんとなく受け入れていたりしております。
そんな中、天涯孤独の自由人の餅田という人間は一味違います。おそらく両親を亡くし児童養護施設で育った彼女は、ともに住む子供たちが群がるピアノにはついぞ近づけず一度も弾くことはなかった。そんな彼女に痒みが起こったのは夢を見ている時、それも自分が初めてピアノを弾き自分の音を聴いた時!!
これが良かったんですねえ……。自分を表現することの恐れからの解放!自由!のようなニュアンスを感じました。こういう話大好きです。
ぽろろんと流れるピアノの音もあいまってナイス演劇!
だけに!
他のコメディな場面でピアノの音源
が流れたのは少し残念……!もっと大事に使って欲しかったなあと思ったり……。個人的には最後の皆がリレー式で希望的観測を唄うシーンがあったのですが、そこを彼女の夢と重ねてピアノの音を入れたくなったりしちゃいました。
ともあれそんな餅田に引っ張られて僕も宇宙人になることを否定的に感じず、むしろ新しい自分の始まりのように受け取れたのかなあと思います。我ながらポジティブで良い解釈です。
この餅田という女はセリフだけで考えると電波なことをいうような奴だった気がするのですが、それを感じさせず素敵な人間として終始することが出来たのは、役者さんの技術と人柄の成せたことだったと思います。天晴れです。
他の役者の方々皆さまも個性豊かなキャラクターとして成り立っていて、初めての役者の方もいたのかしら?凄いです、これからどんどん役者やってほしいです。
だけに!!
話題が移り変わる毎に感情が途切れ途切れになっているように観えたり、創り上げたキャラクターが最後まで変化せずに終わっているように観えたりしてしまったのは、少し消化不良でした。
舞台上で起こった様々なハプニングは自分の役にとってどんな変化をもたらすのか、またはどのハプニングによって自分の役は変化しているのか、人の感情を扱う芝居であるならもう少し丁寧に考えるor演出として観せてくれるともっと共感しやすくなったかなあと思いました。
今回の公演は新団員と共につくる初めての舞台とカーテンコールにて代表さんが説明してくれました。新入生が沢山入っていて嬉しかったです。沢山演劇してほしいです。仲間と過程を楽しむのももちろん、結果を求めて苦悩することも楽しんで欲しいです。
今回の芝居はそんな苦悩も垣間見えた気がして好感のもてる芝居でした。次の公演が楽しみです。
田坂航太郎さん演出作品 ユニット・ピコ「THE BITCH」▼
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