人形劇団むすび座「トッケビー鬼ヶ島と呼ばれた島ー」report

今回は、劇団シバイヌの細田昌宏さんにレポートを書いてもらいました!

 [writer] 細田昌宏(ほそだ まさひろ):劇団シバイヌ所属。大学よりどっぷりと演劇につかり、役者としてさまざまな団体でも舞台にあがる。好きなものは落語とコーヒー。

https://gekidanshibainu.web.fc2.com/



「認定NPO法人 子どもステーション山口 主催 人形劇団むすび座 トッケビ-鬼ヶ島と呼ばれた島- の鑑賞を終えて」

 まさに「人形劇の新境地」の謳い文句に偽りなし、といった印象。

それほど人形劇という形態の舞台表現に造詣があるわけではないが、確かにこれは、一般的な(あるいは私個人が抱いていた)人形劇のイメージとは一線を画すものであると衝撃を受けた。 

ライブだからこそ感じられる言い表せない感覚を覚え、決して見えないが、しかしそこに確かに存在を感じ取れる不思議な体験であった。


 物語の舞台は、トッケビという生き物(生き物という枠では括れない存在かもしれないが便宜上そう記す)が存在する「ある島」。トッケビは姿は見えないがそこに居る、もしくは在る「島に吹く風」のようなもの、として語られる。 島民はそんなトッケビと共に穏やかな生活を営んでいたが、そこに桃の旗印を掲げた船が訪れ……、という、いわゆる桃太郎伝説のパロディもの。

物語、そして演出のキモになっているのが、やはりというか「トッケビ」の存在。 

「トッケビ」という存在。姿を見ることはできない、しかし確かにそこにいる、という概念は、舞台表現の一形態である人形劇に見事に溶け込んだ。それは、この概念が舞台表現そのもののあり方に通ずるものであるからだと思う。 

人形繰りの操る「おばあさん」「犬」「猿」の人形は、紛れもなくおばあさんであり、犬、猿であり、彼らが生き生きと動き回る舞台上は間違いなく「あの島」であった。人形劇を見る時、鑑賞者は、無意識にあるいは鑑賞の約束事としてその人形の操り手の存在は無視をする。間違いなくそこに居る、見えている。しかし物語には存在しないという在り方は、「トッケビ」の存在と逆の概念としてリンクする。しかしながら、個人的にはここが特に面白いと感じた部分であるが、全く無視をするわけではなく、役の持つ感情や息遣い、その他人形自身が持ち得ない部分の表現については、人形の操り手から汲み取る。存在、不在、また観測、非観測の線引きがなんとも曖昧で柔軟な空間であると感じた。これはおそらく本来人形劇の持つ特性なのだろうが、「トッケビ」の存在(ここでこのことを存在と記すのがまた不思議な感覚ですらある)がその特性を鑑賞者に強く意識させる作用を持っていたように思う。 

ここまで構造的な部分にばかり言及したが(筆者のよくない癖である)、物語上でも鍵になるのは「存在」と「観測」あるいは「証明」であった。 

ネタバレにならないように記すので具体的な事象への言及が難しいが、物語の中で、ある思惑によって桃太郎サイドが「この島」に存在しない「あるもの」を作り出そうと画策する。この描写が秀逸。

その「あるもの」は、恣意的で歪で、ある方面からは実用的、忌むべきものでありながら一方で歪な感情と共に、目的ベースで動く者からは歓迎される。そこに在り、穏やかで、明確な目的を持たない「トッケビ」とは対極に位置する。この対比が実に見事である。観測ができなくても存在は可能であり、物語の登場人物はそのことによって結果的に非常に大きな影響を受けることになる。 

加えて、桃太郎自身が登場しないのも、また存在と観測の関係をさらに引き立てている。人形がそこになくても、犬、猿、キジによって語られる言葉だけで「桃太郎」がそこに確かに存在し得る。それは鑑賞者それぞれが思うそれぞれの姿だが、あるいは人形がそこにあるよりも、ありありとその姿を感じられる方法なのかもしれない。 


 人形劇は演劇の一形態。演劇は想像力の芸術、とはよく言ったもので、強烈にそのことを表現した作品であったように思う。 

「トッケビ」の姿は見えないが、鑑賞者それぞれの中には、確かに存在し、さまざまな姿かたちで物語の中と同じように優しい眼差しを向けている。 その在り方は人の持つ感情や覚悟、あるいは夢のようなものと近しい存在ではないかと思う。

 目には見えない、その存在を観測することも、証明することもできない。でも疑う余地なくそれは確かにそこに在るのだから。 それらの多くが「愛」と呼ばれるような暖かで、心地よいものであるならこの社会も捨てたものではないのかもしれない。

えんげき屋 山口店

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